クリスマスも近付き賑わう世界忍者国。 この国の名物のロイ像にもサンタクロース風のジャケットが着せられ、足元には屋台が軒を並べ、老若男女様々な人々がお祭を楽しんでいる。 王宮でも壁や木々に色とりどりの電飾がその光で、雪景色や星の煌めき、ツリーやサンタクロースを描いている。 そんな王宮の一室。丁度、ツリーの頂点の☆の横辺りに、女王の執務室はあった。 「じょおうさまー」 さっきまで熱心に何冊かの本を読んだり、高度な瞑想通信を利用したりしていた環月怜夜が、突然顔を上げて尋ねた。 最近、「色々と世間常識を知って、恋愛も中学生レベルを理解して、人並みの真人間になってきます!」と不思議な宣言をして読書三昧だった彼女のこと。 (またよからぬ質問だろうなー)。 とは思いつつも、少し休憩を入れるつもりで藩王結城由羅は出撃リスト作成の手を止めた。 仕事熱心でもサボっていても口煩い摂政や大臣達だが、彼女の面倒を見るときだけは小言が少ない。 心当たりは――――――ある。 数週間前。 「女王様ー」 「何?」 「男の人って、押しなべて心の中では女の人を縛りたいものじゃなかったんですか?」 「・・・・・・違うよ」 「じゃあ、どうして少年誌でそーいうシーンが多いんですか?」 ・・・・・・・・この後、現実の説明をするのに20分ほど要した後、彼女の顔が青ざめたのは・・・・・・・誰かに尋ねたからだということは想像に難くなかった。 つまりは国民の成人男性の誰かが―――真顔で白昼堂々と聞かれたのだろう。 思い出しただけで不憫な国の誰かと、目の前の別の意味で不憫な環月怜夜の為に心で涙を流した後、女王結城由羅は形の良い口を開いた。 「今度はどうしたの?」 環月怜夜は笑顔で手にした本を指差した。タイトルはカバーがかかっていて読めないが、机に積んである雑誌はこの時期にありがちな恋愛特集らしい。 「あの、今年の鍋の国の流行は、『私がプレゼント』みたいです!」 (流行するものか、あれ・・・・・・)。 という言葉は寸前で止めた。 「そう、それで?」 「どうやってやるんですか?」 少女のような輝く瞳で尋ねられると、無性に哀れみが沸いてくる。 「そうねぇ。ぴんくのりぼん りぼん」 「頭に?」 「裸で腰に」 「腰みの?」 「15cm幅 いやウエストのみ」 うーん、と小首を傾げて環月怜夜は頭で想像図と巡らした。 「ふんどしちっくに?」 頭の中には相撲取りの姿が浮かんでいる。 「うーん いやまあそういうとこはあえて隠さずに?まあ頭にりぼんくらいがかわいいと思う」 相撲取りの頭にピンクのリボンが結ばれている。パラパラ、と机の上の雑誌を捲り、適当なページを指差した。 「サンタガールの服ってどうでしょう?バニーとかメイドもあるけど、普通ので」 「うん、可愛いんじゃない」 うさぎの相撲取りが頭にピンクのリボンを結んでいて、サンタジャケットだけを羽織っているところで、彼女の思考は止まった。 「分かりました。さっき作ったブッシュドノエルを添えて頑張ってみます!!」 とてとてとて・・・・・・・と走って出て行った彼女が残した本のタイトルは、『今昔物語集』だった―――――――。 メッセージ: 「つまらないものですが、私がプレゼントです。マッサージと珈琲淹れることくらいしか取り得がありませんけど、手駒とか捨て石とか陽動とか弾除けとか生体部品くらいの使い道はあると思います。 誰にでも輸血できるO型ですし、術師なら死後の魂やリューンになった後でも式神や絶技として利用できる筈ですし。 ネガティブとまた言われても、他に自分を役立てる方法が思いつかなかったので、貰ってやって下さい」