ーその日の夜ー 家族会議の名目の下、結城由良藩王の応接室に4人の男女が集まっていた。 「ちゃんとデートしてきましたもんっ」 えっへん、と胸を張ってにこにこしている様は逢引帰りの乙女と言うよりも、おつかい帰りの自慢げな子供に近い。環月怜夜である。ちなみに大事な預かり物だからと、片時もスーツケースは離さない。 「良かったですね、姉さん」 同じくにこにこしている緋乃江戌人。姉が幸せそうだと、こちらも幸せになってくる。 「それにしても」 腕を組んでソファに体重を預けつつ、由良藩王が口を開いた。 「やっぱり手馴れてるというか、女たらしねぅ」 ふう、とため息。弟二人も似たように苦笑する。 「女たらしなんですか?気付きませんでした」 『・・・・・・・・・・』 沈黙がたっぷり数十秒ほど場を支配した。 「な、な、何が?!」 「いや、見れば」 「姉さん、僕達みたいな普通の人にはできないことですよ」 「そうそう」 「え・・・」 青ざめた顔色で環月怜夜が恐る恐る尋ねるように呟いた。 「その、いたずらっ子だなぁ、と・・・・・」 再び、今度は3人分のため息。 「ロジャーは子供じゃないんだから」 「いえ、ねえさま。子供だとばっかり思ってました!! 」 「まあ、君が子供だから、ね」 片目だけ開いて、 由良藩王がくすっと意味ありげな笑顔を向ける。 「子供じゃないもん!!!」 「はは」 「笑われた!!」 よしよし、と弟二人から頭をなでられる環月怜夜。 「なんでーーーー」 ぶすっとした表情で暫し自問自答を繰り返す。 数分後。 「そうか、子供にからかわれたんじゃなくて、女たらしにからかわれてたんだ・・・・・・orz 今の今まで気付きませんでしたよっ!」 「えー」 「だ、だってほら、凍矢さんだってからかわれてるもん!」 「まあ、あっちは君らを子供だと思ってからかってたかも。確かに嬉しそうにからかってたものねぇ」 にやにや、と由良藩王は氷野凍矢と環月怜夜の二人を交互に見た。この二人、ロジャーのこととなると周囲が言えなくなる所為か、よくからかわれている。 「俺はたらされてないよ!?」 「いえいえ。凍矢さんの乙女属性がデスネ」 「俺にはありません!たらされてるのは姉さんだけですよ!」 「わ、私だって女たらしにたらしこまれてないもん!!・・・・・・子供にからかわれてたと思ってただけだから、まだセーフ!!!」 「いいじゃん、今回は結構女の子扱いしてたよ」 「・・・・・へ?どこが?」 きょとん、と環月怜夜は由良藩王を見上げた。 「おめでとうおめでとう」 「よくわからないけどありがとうです」 ぺこり、と頭を下げる。 (何にも判ってないねう・・・・・) やや呆れ気味に3度目のため息。 「ま、次が勝負ねう」 「好かれてるのかなぁ・・・」 「へたれめ」 「ううう・・・・」 ぼそっと呟かれた言葉に唸る。 「好意と恋は違いますし・・・・」 「じゃ、次は得意技を見せてアピールするとか」 「特技・・・・・うっかり?」 「それは失敗してるねう」 「ええ」 「・・・」 「じゃあ、何も無いところで転んでみるとか、道に迷ってみるとか。うっかりのアピールをしてみるねう」 「そんなので好感度が上がっても嬉しくなーーーーい!!」 ぜいぜい、と息を荒げた後、ぽつんと付け加える。 「いえ、ちょっとは嬉しいですけど」 (先が長そうねう) 由良藩王は4度目のため息をついて、今度冷やかしに行くことを心に決めた。 ※実話を元に構成されています。