この一年、様々なことがありました。 根源種族に故郷を追われ、新天地での新たな生活。わんわん帝国とにゃんにゃん共和国の国境争いや領土争いは過去にも起こりましたが、今度はそれに加えてオーマと呼ばれる敵が攻めてきたのです。 彼らは容姿は我々と同じものの、価値観や生活習慣が全く異なります。 犬猫共に手を取り合わねば、このささやかな新しい暮らしすら維持できないほど、大変なものでした。 さらに、戦いの合間にも、小さな冒険で油田や温泉が発掘されたり、ジェントルラットが戦争責任の為に国を追われ、伏見藩国やほねっこ男爵領は改易、にゃんにゃん共和国の経済の乱高下、タマ大統領の失脚・・・・・・本当に様々なことがありました。 猫の手も借りたいとはよく言ったもので、私どもの娘も未だ幼い学生の身ながら、武器を手に取り戦いに加わったのです。 傷つく仲間や焼け焦げた土地を目の当たりにし、それでも涙を拭いて立ち上がり、戦いに赴き、復興に尽力する彼女は、親の私達が見ても、随分と頼もしく成長したと思います。 そしてやっと今、全てのオーマと戦いを終え、つかの間の安らぎを甘受しておりました・・・・・・娘以外は。 「あーもー。戦争また起きないかなー」 最近の娘の口癖です。 「何言ってるの!平和が一番でしょ!」 「だってー。この一年でどれだけ教科書が変わったと思う?あちこち立国するし改易はあるし油田が見つかるしで地理は覚え直しだし、戦いが多すぎて歴史と現代社会は50ページも増えるし、経済なんて犬でも猫でも問題起きてるしー」 「そうね。お隣の銀行マンのご主人も苦労しているみたいよ。あそこ、株もやってるでしょ。貴方はお金が懸かっていないからいいいじゃない」 でも、娘はこちらの言うことは聞いてないようです。愚痴を言いたいだけみたいですが、サボっているということですよね。まったく・・・・。 「し・か・も。私の卒業って再来年なのよねー。受験の頃なんて、こんなの忘れてるわよー。緑と黒のどっちが先に攻めてきたかなんて、どーでもいいじゃん」 「試験官の先生には重要なことなのよ、きっと」 母の私から見てもどうでもいいことなのですが、こう言うしかありません。 「あーあー、あたしもあと5年早く生まれてたら、お兄ちゃんみたいにペラペラの教科書で済んだのにー」 「いいから勉強しなさい!いつまでも学生アイドレス着てられるわけじゃないのよ!」 「いーわよ!30過ぎても」 「歳を取ってからの制服が似合わないことくらい、ハイパーメードお局さんを見れば分かるでしょ!」 娘も流石にこれには口ごもりました。女性の制服は中高年には似合わないようにデザインされているのです。 「お母さん、貴方の将来が心配なの。法官や吏族になって欲しいとまでは言わないけど、これからの時代、医師アイドレスや整備士なら食いっぱぐれないからね」 「うん・・・・・」 「そういう先を見越したアイドレスを取得していて、罰金の少ない国を選ぶためには歴史や地理の授業って大事なの」 娘は小さく頷いて、勉強に戻りました。これで2週間くらいはやる気が出ることでしょう。